京都地方裁判所 昭和40年(ワ)300号 判決 1968年9月25日
原告(反訴被告)
増田俊一
代理人
花房節男
ほか四名
被告(反訴原告)
京都市
右代表者市長
富井清
代理人
納富義光
当事者参加人(反訴被告)
長友嘉平
代理人
香川公一
主文
原告の被告に対する本訴請求を棄却する。
被告と原告および参加人との間において、被告が別紙物件目録記載の溜池(本件溜池)につき所有権を有することを確認する。
原告および参加人は、被告に対し、本件溜池を明渡せ。
原告は、参加人に対し、本件溜池につき所有権移転登記手続をせよ。
参加人の被告に対する請求を棄却する。
訴訟費用中、本訴の分は原告の負担とし、反訴の分は原告および参加人の負担とし、参加訴訟のうち原告との間の分は、原告、被告との間の分は参加人の負担とする。この判決は、第三項に限り、仮に執行することができる。
事実《省略》
理由
第一(原告の被告に対する本件溜池所有権移転登記手続請求、参加人の被告に対する本件溜池所有権確認請求について)
一 本件溜池について、大正八年五月一九日受付をもつて、京都市上京区第三三学区の所有名義に保存登記がなされ、昭和三八年五月七日受付をもつて、原因昭和一六年三月三一日承継、取得者京都市(被告)の所有権移転登記がなされている事実は、当事者間に争いがない。
成立に争いない丙第一号証によれば、参加人が、昭和四〇年三月一五日、原告から、本件溜池の所有権を買受けた事実を認めうる。
二 Xが、Yに対し、Y所有名義の土地の所有権を取得したと主張して、土地所有権移転登記手続請求訴訟を提起し、Xから右土地を買受けたZが、右訴訟に独立当事者参加をなし、Yに対し、土地所有権確認、Xに対し、土地所有権移転登記手続の各請求をした場合、Xが、その土地所有権取得原因として、A事実のみを主張し、Zが、Xの土地所有権取得原因として、A事実およびB事実を主張したとき、XおよびZの請求の当否は、共通の訴訟資料に基いて、判断しなければならないから、XのYに対する請求の当否は、X主張のA事実およびZ主張のB事実に基いて、判断しなければならない(民事訴訟法第七一条第六二条)。
三 よつて、原告先代音吉が時効により本件溜池の所有権を取得したか、否かについて、原告および参加人の主張を順次判断する。
(1) 原告主張二の事実(参加人主張三の(一)の(1)の事実)については、右主張に副う、<証拠>は、採用せず、他にこれを認めうる証拠はない。
(2) 参加人主張三の(一)の(2)の事実については、右主張に副う<証拠>は採用せず、他にこれを認めうる証拠はない。
(3) 参加人主張三の(一)の(3)の主張について
<証拠>を綜合すると、昭和一七年夏頃、訴外藤田捨吉は、本件溜池を事実上使用収益していた訴外谷菊太郎から、その地位を護受け、その後間もなく、音吉および訴外田村巳之吉と共に、本件溜池に稚魚を入れて養魚した事実を認めうるけれども、右事実をもつてしては、未だ音吉が右養魚をした時点より、本件溜池を自主占有したものとなしえず、他に参加人主張の右時点より、音吉が、本件溜池を自主占有したと認めうる証拠はない。
(4) 参加人主張三の(一)の(4)の主張について
<証拠>を綜合すると、本件溜池は、古くより下流の農家によりその灌漑用水として利用されていたものであり、昭和二六年当初頃までは、ほぼ満水に近い状態であつたところ、その後台風や洪水により土砂が入りこんで、漸次その東端部分が自然埋立された後の昭和二七年頃より、音吉において、右自然埋立部分を耕作し始めて、本件溜池の一部で作物を栽培するに至り(この点に関する、<証拠>は採用しない。)その頃音吉は、被告の職員より、本件溜池が被告の所有である旨聞かされたけれども、なお右埋立部分の耕作を継続し、その後、自己に本件溜池の払下方を被告の職員に歎願し、昭和三八年には、右払下運動を訴外山口光太郎に依頼し、同人は、これを承諾し、同年一〇月、被告管財局長浜野練太郎に対し、「本件溜池が被告の所有であると聞きながら、その一部を勝手に耕作し続けたことを陳謝すると共に、自己に本件溜池の払下方を歎願する」旨の音吉名義の払下歎願書(乙第五号証)を作成提出した事実を認めうる。
右認定の事実によると、音吉は、昭和二七年本件溜池の東端部分を耕作し始めた時より、本件溜池を到底自主占有していたものとはいえず、他に参加人主張の右時点より、音吉が本件溜池を自主占有したと認めうる証拠はない。
以上の判断によれば、その余の点について判断するまでもなく、音吉が、本件溜池の所有権を時効により取得した旨の原告および参加人の主張は、理由がない。
四 よつて、原告の被告に対する本件溜池所有権移転登記手続請求、参加人の被告に対する本件溜池所有権確認請求は、棄却を免れない。
第二(被告の原告および参加人に対する反訴請求について)
一(本件溜池所有権確認請求)
<証拠>を綜合すると、本件溜池は、土地台帳上、明治五年に、雲林院、門前、新門前、紫竹、大門、大宮森、上野、三筑、開等を併合して成立した山城国愛宕郡東紫竹大門村の村中所有として記載され、右東紫竹大門村は、明治二二年の町村制施行により成立した京都府愛宕郡大宮村に併合され、大正元年一〇月二二日、右土地台帳上、右大宮村の所有に誤謬訂正され、その後、右大宮村は、京都市に合併編入され、大正八年五月一九日、地方学事通則および小学校令により設置された訴外第三三学区の所有名義に保存登記がなされると共に、右土地台帳上もその旨記載された事実、学区制廃止により、被告が、昭和一六年三月三一日、訴外第三三学区の所有財産を包括承継した事実を認めうる。
右認定の事実から、本件溜池の所有権は、町村制が施行される以前には、いわゆる自然村たる東紫竹大門村に総有的に帰属していたが、明治二一年法律第一号(それは、従来の総合人たる村を、近代的公法人たる地方団体に改造した。)による町村制の施行により大宮村が成立すると共に大宮村に帰属することとなり、次いで、大宮村が京都市に編入されると共に、訴外第三三学区の所有となつた(学区は、公法人として、基本財産を所有しうると解される。)ことを推認しうる。
したがつて、被告は、昭和一六年三月三一日、本件溜池の所有権を取得した。
よつて、被告の原告および参加人に対する本件溜池所有権確認請求は、認容されるべきである。
二(本件溜池の明渡請求)
被告は、原告および参加人が本件溜池を占有している旨主張するところ、原告および参加人においてこれを明らかに争わないから、原告および参加人は、被告主張の右事実を自白したものとみなす。
よつて、被告の原告および参加人に対する本件溜池明渡請求は、認容されるべきである。
第三(参加人の原告に対する本件溜池所有権移転登記手続請求について)
一(1) 他人所有の不動産の売買契約がなされた場合、売主がその所有権を取得してこれを買主に移転しないときでも、買主は、売買契約に基き、売主に対し、右不動産につき所有権移転登記請求権を有すると解するのが相当である。
(2) 所有権移転登記手続を求める請求は、所有権移転登記の実行が不能の場合でも、訴の利益を失うものではない(「不動産登記の抹消登記手続を求める請求は被告の抹消登記申請という意思表示を求める請求であつて、その勝訴の判決が確定すれば、それによつて、被告が右意思表示をしたものとみなされ(民訴法七三六条)、その判決の執行が完了するものである。したがつて、抹消登記の実行をもつて、右判決の執行と考える必要はないから、右抹消登記の実行が可能であるかどうかによつて、右抹消登記手続を求める請求についての訴の利益の有無が左右されるものではない。」と判示する最高裁判所所昭和四一年三月一八日第二小法廷判決、民集第二〇巻第三号四六四頁参照)
(3) したがつて、Xが、Yに対しY所有の土地の所有権を取得したと主張して、土地所有権移転登記手続請求訴訟を提起し、Xより右土地を買受けたZが、右訴訟に独立当事者参加をなし、Yに対し、土地所有権確認、Xに対し、土地所有権移転登記手続の各請求をした場合、Xの所有権取得が認められないため、XのYに対する所有権移転登記手続請求、ZのYに対する所有権確認請求が、認容されないときでも、ZのXに対する所有権移転登記手続請求は、認容されるべきである。
二 よつて、参加人の原告に対する本件溜池所有権移転登記手続請求は認容されるべきである。
第四(結論)
よつて、原告の被告に対する本訴請求、参加人の被告に対する参加請求を棄却し、被告の原告および参加人に対する反訴請求、参加人の原告に対する参加請求を認容し、民事訴訟法第八九条、第九三条第一項本文、第一九六条を適用して、主文のとおり判決する(小西勝 杉島広利 寒竹剛)